私立小学校受験と中学・高校留学
—わが子を成功に導く教育とは何か—
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目次
Part 1 立身出世主義の終焉
Part 2 アメリカの大学改革
Part 3 プレップ・スクールと公立高校
Part 4 中学・高校留学に関する注意
Part 1 立身出世主義の終焉
幼稚舎長が語る実情
1980年から8年間にわたり慶應義塾幼稚舎で舎長(校長)を務めた川崎悟郎氏の著書『間違ってます、お母さん—元幼稚舎長の本音』(講談社、1996年)は、なかなか興味深い本だ。内容は、出版のしばらく前から社会現象となっていた私立小学校受験(いわゆる「お受験」)や早期教育に奔走する親たちをたしなめるものとなっている。
例えば、このような文章がある。
「幼稚舎に入れば、エスカレーター式に普通部—中等学校を慶應では普通部といいます—、それから高校へ行って、大学へ行って、自然に大企業へ就職するんだろう。そういうふうにお考えになるようです。これは仕方がないと思いますが、現実には…….」。
「中に入ればおわかりだと思いますが、幼稚舎生がストレートに大学まで卒業するのが約50パーセント、高校や大学で留年して…….(中略)中学・高校で落ちこぼれる人もいるのです。これが実情なのです」。
川崎氏が幼稚舎長であったのはかなり以前のことだが、氏によれば、当時からすでに、舎長面接(面談)の際に幼稚舎や慶應とは縁もゆかりもない国会議員の紹介状を持参したり、早い受験番号をとるためにアルバイトを雇って並ばせたりする親がいるなど、「お受験」の過熱ぶりは目に余るものがあったらしい。
慶應幼稚舎をはじめとして、私立小学校の人気がますます高まっている今日ではなおのことだろう。幼稚舎長ならずとも教育者自ら「水を差したい」気持ちになるのも理解できようというものだ。
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首相の学歴が変わった
だが、近年における私立学校の人気にも相応の根拠がある。
しかも、それは皮相的なものではない。日本社会の深層における変化を反映したもの、というべきだ。
その変化を象徴的に示すデータがある。
ここに用意したのは、「歴代首相の学歴」を示す一覧表である。片山哲首相から麻生太郎首相まで、戦後の新憲法の下での内閣総理大臣28名の学歴を、小学校から大学・大学院まで調べられる範囲で表にしてみた。
これを見ると意外な、しかし明らかな傾向がみてとれる。
これら28名うち、片山哲首相から中曽根康弘首相までが14名、そこで折り返して竹下登首相から麻生太郎首相までが14名となる。
前半の14名のうち8名が東京帝国大学の出身者である。残り6名のうち3名が京都帝国大学などの国立大学出身者であり、今太閤と呼ばれた田中角栄は例外中の例外としても、私学出身者は石橋湛山(早稲田大学)と三木武夫(明治大学)の二人しかいない。
ところが、竹下首相以降の後半14名となると、東大出身者は宮沢喜一首相ただ1人となり、むしろ例外的な存在となっている。東大以外の国立大学の卒業生は誰一人としていない。
さらに、戦後を通じて東大出身の首相経験者はすべて東京帝大の出身であって、新制大学に移って以後の「東京大学」を卒業した総理大臣は皆無であるのは意外と言うべきかも知れない。範囲を新制の国立大学全体に広げたとしても、2009年3月現在で、卒業生が首相になったという例はないのである。
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難関国立大学と「立身出世主義」の終焉
つまり、日本の最高指導者の地位は今や私学出身者の独壇場となっているのである。これは、日本社会において、目立たないが、しかし何かしら劇的な構造変化が静かに進行しているからではないのか。
よく知られているように、2世、3世の議員が増加しているのはその表れだろう。そして表を見れば明らかなように、首相の「私学化」はその議員身分の「世襲化」と軌を一にしている。
しかし、理由はどうあれ、日本社会において東大を含めた官立大学が一様に地盤沈下を起こしていることはほぼ間違いがないと言うべきだ。
英語圏の大学を除けば「ほぼ世界最高ランク」とされる東京大学だが、その評価はあくまでアカデミズムの世界のものであって、出身者の社会的地位の向上に役立っているわけではないのである。
こうしてみると、幼時から名門私立小学校を目指す、いわゆる「お受験」ブームは、東大に象徴される「立身出世主義」がもはや「社会の主流ではない」と現代の親たちが鋭く嗅ぎ付けていることの現れではないか、と思えてくる。難関国立大学のアカデミアとしての評価の高さが必ずしも卒業生の地位向上に結び付かないとしたら、一般に「子供の社会的地位の確保」を重視する親にとって、名門私立大学、そして名門私立大学への進学を担保するための名門小学校への関心が高まるのは無理からぬところだからだ。
麻生太郎首相は、自分のために設立された「麻生塾小学校」に通ったというが、首相の出身小学校が話題になること自体、「立身出世主義の終焉」を象徴する出来事のようにも思える。
次は、「Part 2 アメリカの大学改革」
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