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「絵画投資--もう一つの神話」の崩壊
「異常」と言えば、当時、すなわちバブル期に出版されていた美術品投資・絵画投資についての本を読むと、「株・不動産よりも安全・確実であり、元本割れはない」などと書いてあるから驚く。それが時代の雰囲気だったのだろうか(注)。しかし、現実はと言えば、バブル経済は間もなく崩壊し、それとともに美術のマーケットも長期低迷に陥った。回復の兆しが見え始めたのはようやく最近になってからのことである。
バブル崩壊後の絵画市場、美術マーケットの状況は、前記のゴッホ、ルノアールの作品の行く末に象徴されていると言える。聞くところによれば、所有主となった斉藤了英氏が実際にこれらの作品を見たのはたった1度きりであって、結局、数年後には買値の半値近くで海外に売却されて、巨額の損失を出したということだ(誤解のないように言っておくが、現在もパリのオルセー美術館にある大作『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』は同じモチーフを題材としてはいるが別の作品である)。同氏が名誉会長を務めていた大昭和製紙の名も、業界再編により今はない。
(注)実際、絵画投資・美術品投資に関する本の出版は1990年頃に集中しているようである。
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絵画・美術品バブルの末路
これはほんの一例に過ぎない。この頃、日本の企業が買い漁った泰西名画の多くは不良資産と化し、一般公開されることもないまま死蔵されるか、安値で海外に売却される運命を辿った。
安田火災海上(現在は損保ジャパン)が購入し東郷青児美術館に展示しているゴッホの『ひまわり』などは、そのわずかな例外である。資産価値がどうなったかはともかく、少なくとも一般公開されているという意味で、社会的な役割を果たしているからだ。
翻って、1980年代にわずかなお小遣いをためてローンを組み、比較的手頃だと思われたブラジリエなどの外国人作家の版画を買った庶民も、同一作家の同様の作品が現在、購入当時の数分の1の価格で売られているという現実に、嘆息せざるを得ないのではないだろうか。
「元本割れはない」など、とんでもない話である。仮にも投資として行うつもりならば、絵画投資、美術品投資とは、かくも不確実なものであると知るべきなのである。
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